大型車の補助ブレーキには様々な種類がありますが、その中の一つがリターダーです。
以前は小型・中型トラックにも搭載されていましたが、コストの関係により現在は大型車だけに搭載されるようになりました。
今回は補助ブレーキであるリターダーについてご紹介いたします。
■リターダーの基本知知識
まずはリターダーの基礎知識をご紹介します。
・リターダーは流体式と電磁式の2種
リターダーの原理には流体式と電磁式の2種があります。
「流体式リターダー」
流体式リターダーは、エンジンオイルやATF(オートマチック車専用のオイル)などで満たし、ローターを回転させて液体がステーターにぶつかるようになっています。
液体がぶつかることで抵抗が生まれ、減速する仕組みです。
「電磁式リターダー」
電磁式は液体の代わりに電磁誘導を利用したリターダーです。
プロペラシャフトとローターを回転させて過電流を生み出し、磁力を発生させます。
発生した磁力は、駆動輪を抑制させる反発力を持ち、減速します。
電磁式の中には永久磁石を組み込んだ「永久磁石式」もあります。
永久磁石式はコスパがよく、小型で軽いため日本で主流になりつつあります。
・リターダーの効果
トラックのような大型車にはパワーのあるディーゼルエンジンが搭載してあり、一度スピードが出るとフットブレーキのみの減速は危険です。
長時間フットブレーキばかり使用すると熱が発生しますが、リターダーならその心配を抑えられます。
山道などの長い下り坂でも安全に減速した状態で運転できるのは、リターダーのような補助ブレーキを使用しているからです。
■リターダーがあるメリットとは
リターダーにはほかにもこんなメリットがあります。
3つのメリットをご紹介いたします。
・運転手の疲労軽減
リターダーはオンオフを切り替えるだけなので操作が簡単です。
またフットブレーキを思い切り踏む必要がなくなるので、ドライバーの労力を軽減させてくれます。
・安全と事故防止に役立つ
リターダーの抑制力は強力です。
飛び出しや障害物を回避して事故を起こしそうになったときでも、フットブレーキとリターダーの併用で大事故の防止に繋がります。
・整備性に優れていてランニングコストが下がる
もっとも大きなメリットは、ランニングコストの良さです。
リターダーがあることでフットブレーキの使用が減るので、ブレーキライニングの交換回数が大きく減ります。
およそ6倍もブレーキライニングが長持ちするというのですから、頻繁に大型車を使っている方はメンテナンス費用を下げることができるので嬉しいですよね。
■リターダーは後付けできる?
今乗っているトラックにリターダーがない場合、後付けできるのでしょうか。
・流体式リターダーには冷却装置も必要!
流体式のリターダーは熱を持つため、こもった熱を冷やす冷却システムとして配管や冷却装置が必要です。冷却システムはそれなりに重さがあります。
電磁式の場合、冷却装置は不要ですが電気系統の見直しが必要です。
後付けはどちらの場合でも大掛かりな作業が必要になります。
・大掛かりな手間と金額がかかってしまう
結論からいうとリターダーの後付けは可能です。
しかし先に説明した通り、どちらのリターダーを設置するにしても大掛かりな作業が必要となります。
作業が複雑なため、費用もかなり高額になってしまいます。
「お金はいくらかかっても構わない!」という方以外は、後付けをするのは厳しいといえるでしょう。
・後付けを考えるなら中古で新しい車両を購入するのもあり
リターダーの後付けを検討するなら、最初からリターダーがついている車両を選ぶのがおすすめです。中古車の初期費用は新車ほど高額にならないので手が届きやすいですよ。
■リターダーの操作方法
リターダーを活用することでより安全な走行ができます。
・リターダーをうまく操作するには?
リターダーは走行状況に合わせた操作がポイントです。排気ブレーキ以外にも補助ブレーキがあるので、それらと組み合わせて適切な操作を行いましょう。
たとえば荷物を大量に積んでいる場合や、長い下り坂を走行する場合は排気ブレーキを操作し、フットブレーキにかかる負担を減らすことで、安全かつ燃費のよい走行ができます。
ただし、平地などリターダーを使用しなくてもよい場合にリターダーを使用し続けると、かえってエンジンに余計な負荷がかかってしまいます。車体の寿命を短くする原因になるため、排気ブレーキを利用しなくてもよい状態になったらすぐに解除しましょう。解除はスイッチ操作以外に、アクセルを踏む、またはクラッチを切るなどの操作でも行えます。
排気ブレーキ以外にジェイクブレーキが搭載されている車両もありますが、この場合はエンジンが冷えている状態では使用しないよう、気を付けてください。
・リターダーが故障したらどうなる?
リターダーが故障してしまうと、エンジンブレーキのみで走行停止を行わなければなりません。エンジンブレーキ単体では減速力が足りず、フットブレーキへの負荷が大幅に増加してしまいます。フットブレーキの負荷が増えると部品の劣化速度も速くなるため、メンテナンスや修理の頻度も増加しかねません。
リターダーは適切な使用を心がけ、不要なメンテナンスの増加は避けましょう。
■他にもある補助ブレーキ
こちらではリターダー以外の補助ブレーキについてご紹介いたします。
・排気ブレーキとは
排気ブレーキはアクセルペダルから足を離した際に、減速する力を補助するブレーキです。主にエンジンブレーキが弱いディーゼル車に搭載されています。
なお、排気ブレーキはリターダーと比較するとブレーキ力は弱い傾向にあります。
・排気ブレーキの仕組み
運転席にスイッチが付いており、アクセルを離すとフラップやバタフライと呼ばれるバルブが閉じることで、排気の流れが止まります。しかし、完全にバルブを閉じてしまうと排気圧力が高くなり、エンジン内に逆流しかねません。そのため、排気バルブには小さな穴や圧力調整の弁が付いており、一定以上の圧力がかからないようになっています。
排気がしにくくなることで抵抗力が増し、この抵抗力によって制御する仕組みです。
・排気ブレーキの注意点
排気ブレーキはリヤタイヤに作用します。そのため、荷物を積んでいない車体総重量が軽い状態で排気ブレーキを使うとスリップのリスクが増加するため、注意しましょう。特に雨の日は路面が滑りやすくなっており、スピンを起こして重大な事故につながりかねません。
無駄な使用をすると燃費が悪化することも考えられるので、使用するタイミングを見極めることが大切です。
・ジェイクブレーキとは
ジェイクブレーキは、エンジンの圧縮工程でシリンダー内の圧力を抜くことで生まれるシャフト回転の抵抗力を使用したブレーキです。中型トラックや大型トラックは車体が大きく、排気ブレーキのみではエンジンブレーキが足りないため、ジェイクブレーキも使用されます。
ジェイクブレーキは、アメリカのジェイコブス社が取り扱う商品名で、日本では異なる名称で呼ばれています。たとえば、三菱ふそうではパワータード、いすゞや日野ではエンジンリターダーなどが通称です。また、このブレーキはトラックだけでなく、バスなどにも用いられています。
リターダーのような補助ブレーキは走行に関わるものなので、ついている方が安心できますよね。
今乗っているトラックやバスにリターダーが付いていない場合、買い替えを検討してもよいかもしれません。